事例の紹介④【管理組合の合意の形成に関わるもの】
◇築12年、1回目の大規模修繕 住みよいマンションにするためには
①建物概要
2001(平成13)年3月竣工・SRC造(一部RC造、S造)・12階建て・168戸
②主な工事内容
仮設(現場事務所、資材倉庫、廃材仮置場の設置、足場・メッシュシート養生等)/躯体回復/外壁タイル/外壁塗装/防水/シーリング/鉄部他塗装/その他建築関連工事 ○工期/平成25年1月~平成25年7月
③経過
当該マンションは2001年竣工してできた管理組合であるものの、7年後には「建物保全委員会」を発足。理事会と連携を保ちながらセミナー参加などによりマンションの維持保全の知識の習得に励んだ。2009年、大規模修繕工事の検討開始。住民自らの目で経年劣化の個所などを確認し、建物の現状を知った。その上でフローチャートの作成、大規模修繕工事の進め方の検討をはじめた。そこで設計・監理方式を選択している。大規模修繕工事の検討開始に際して、「管理組合が工事を実施する目的・方針を明確にすることが大切です」というのは当時の理事長。管理組合が決めた第1回大規模修繕の基本方針は
①初期性能を戻すことと、居住水準に見合うグレードアップ
②情報の開示と合意形成(すべてにおいて丁寧に、わかりやすく、オープンにし、区分所有者の合意を得て進めていく)
③安全第一(居住者・地域住民の配慮も考えた工事計画とし、子ども対策なども周知する)
④資金計画(修繕積立金の範囲内で工事を実施する。その後は将来の大規模修繕を見据えて長期修繕計画を見直しする)。理事長は「工事の必要性を理解してもらうためには、よそのマンションの大規模修繕工事を見学することが効果的。必ず複数の理事メンバーで参加し、特に女性に参加してもらうとよいと思います。工事が始まってからは理事会と修繕委員会で作る実行委員会方式を採用したことが成功しました。設計者、施工者、委員会の3者が緊張感を持つことがいい工事につながります」と話している。
よくある管理組合からの合意形成に関する「不安」事例一般
大規模修繕工事の合意形成に関連するハードル(法令等)について
①建物の区分所有等に関する法律より抜粋
(議事)
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
② 標準管理規約より抜粋
(総会の会議及び議事)
第47条 総会の会議は、前条第1項に定める議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。
2 総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決する。
3 次の各号に掲げる事項に関する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。
一 規約の制定、変更又は廃止
二 敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)
三 区分所有法第58条第1項、第59条第1項又は第60条第1項の訴えの提起
四 建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
五 その他総会において本項の方法により決議することとした事項
4 建替え決議は、第2項にかかわらず、組合員総数の5分の4以上及び議決権総数の5分の4以上で行う。
総会承認の合意形成は 議決権の過半数でクリアする
合意の形成ポイント
①発生したトラブルに対処するのではなく、そのトラブルが発生しにくい環境を事前段階からつくりあげていく
「知らなかった」、「聞いていない」「対応する時間が足りない」等、事前に「知っていれば」そもそもトラブルにならない事もある。
その為には、工事前の説明会だけではなく、事前の計画段階からの「知らせる」手法が効果的である
集会形式による説明
・調査診断内容の説明会
・工事内容(設計)の説明会
・大規模修繕工事の議案総会
・工事着工前の工程等の説明会
広報物による説明
・委員会、理事会での検討議事録の配布や掲示
・大規模修繕工事に関する検討のみを編集した読みやすいニュースレターの作成と配布
・管理組合でネットウェブ環境が整っている場合はそこでのニュース配信
大規模修繕工事の進捗のフロー(70戸相当程度)
合意の形成ポイント
②スケジュールに合わせて計画段階の節目ごとにタイムリーに集会を開催する
遅すぎるタイミングでは逆効果になる。また説明では反対や厳しい意見がでても賛否を諮る訳では無いので「聞く」余裕をもつことも大事
また③の工事説明会は7ヶ月以上の工期になる場合は工事期間中の中間時にも開催すると「忘れ」が予防できて効果的
工事の計画立案によるもの
・児童が多いマンションでは夏休み中の工事を1ヶ月間休止したりする
・盛夏期間中の施工対象住戸の負担軽減の為工事休止期間を設ける
・特に住戸近接の騒音振動が激しい場合は「集会室」等を一次避難場所として使用させる
人と自治組織によるもの
・在宅が必要な工事で、しない事による工事全体への影響が大きい場合、居住者同士の連携でカバーしあう
・高齢者等工事に関わる事項を公に聞きにくい立場の方に「近所のつきあい」的な流れで工事情報を伝える
合意の形成ポイント
③肉体的な負担や精神的な不安からくる「嫌悪感」をケアすることにより賛同を得やすくする
工事に対しては子供の安全が心配だ、とか夏場の暑さにシートで覆われると耐えられない等の何らかの負担や漠然とした不安から工事実施に弱いが否定的な立場を取る人もいる。こうした方々には「工事計画の立案」にその対処法を盛り込み一定の解決が図れることを示す事が効果的である
児童の多いマンションで「安全」と「安息」から夏休みをとった
あえて前例があるものは前例にならう
・個別の費用負担について、良し悪しの判断は一旦置いておき、前例があるときはそれを踏襲する
この工事のタイミングで 一度に解決を推し進めない
・規約に抵触する状態がありながらもその状況を前提として工事に対して反対が大半になる事が見込まれる場合、まず工事、その後順を追って規約順守という考えにて対処をする
合意の形成ポイント
④以前はこれで対処したとか、暗黙の了解であるとか、不可逆性の過去を大義にして協力を拒む機先を制する
悪しき既得権益を認める訳では無いが、今回は工事を行う事が共通の大目標である。
その次の目標にしても良い事は割りきる決断力も必要である。
販売時点で将来の個人負担撤去の説明をしていない、
またこれまで管理組合より個人負担撤去のアナウンスをしていないので今回に限り管理組合費用にて撤去処分する事とした
管理組合のコミニュケーション 自治組織のコミニュケーション そして両者の融合
- 資産保全は管理組合だが構成員の区分所有者は同時に近所に住む者同士
- 顔の見える仲では対立意見も言いにくい
- 匿名性の意見を言う前に仲間同士で話し合い解決
合意の形成ポイント
⑤日頃のつきあい、コミニュケ-ションの深さが意見の対立構造を和らげる
一つ屋根の下に住む運「共同住宅」のつきあいであるという原点を見つめ直す。
大規模修繕工事だけではなく常日頃からのコミニュケーションの深さがとっさの際でも合意形成を容易にする